これが全く見も知らぬ人に預けられたと云うのではなし、兎も角も足かけ四年の間同じ屋根の下に住み、同じ竈の御飯をたべて、時にはたった二人ぎりで三日も四日も留守番をさせられた仲であるのに、あんまり無愛想過ぎるではないか。
それとも私にいじめられたことを今も根に持っているのだとすれば、畜生の癖に生意気なと、つい腹も立って来るのであったが、ここでこの猫に逃げられてしまったら、折角の計劃が水の泡になった上、蘆屋の方でそれ見たことかと手を叩いて笑うであろう、もうこの上は根較べをして、気が折れて来るのを待つより外に仕方がない、なあに、ああして食い物とフンシとを眼の前に当てがっておきさえすれば、いくら剛情を張ったって、しまいにはお腹が減って来るから食わずにいられないであろうし、小便だって垂れるであろう、そんなことより今日は私は忙しいのだ、是非晩までにと請け合った仕事があったのに、朝から何一つ手を付けていないのだったと、ようよう彼女は思い返して、針箱の傍にすわった。
そして男物の銘仙の綿入を、それからせッせと縫いにかかったが、ものの一時間もそうしているうちに、直ぐ又心配になって来るので、ときどき様子に気を付けていると、やがてリリーは部屋の隅ッこの方へ行って、壁にぴったり寄り添うてうずくまったまま、身動き一つしないようになってしまった。