実を云うと、まだ塚本には逃げられたことを知らせてやらないのであるが、あれから此方、ずっとそのことが頭に引っかかっているのであった。
彼女としては早く知らしてやった方が行き届いていることは分っていたのだが、「憚りながら、とうに戻って来ておりますから御安心下すって結構です、いろいろお手数をかけましたが、もう御入用はありますまいな」と、皮肉交りに云われそうなのが業腹で、つい延び延びにしていたのである。
しかし戻っているとしたら、此方の通知を待つ迄もなく、向うからも挨拶がありそうなものだのに、何とも云って来ないのをみると、何処かにまごついているのであろうか。