この間ここの二階にいた時は、とうとう一度も啼かなかったが、それは確かに、蘆屋時代に聞き馴れた声に違いなかった。
急いで挿し込みのネジを抜いて、窓から半身を乗り出しながら、室内から射す電燈のあかりをたよりに暗い屋根の上を透かしたけれども、一瞬間、何も見えなかった。
想像するに、その窓の外に手すりの附いた張り出しがあるので、リリーは多分そこへ上って、啼きながら窓を叩いていたのに違いなく、あのばたんと云う音とたった今見えた黒い影とは正しくそれだったと思えるのであるが、内側からガラス戸を開けた途端に、何処かへ逃げて行ったのであろうか。