ただ問題はリリーを素直に引き渡すかどうかと云うことであったが、それとても、福子の嫉妬心を煽り立てたら大丈夫うまく行くつもりでいた。
だからあの手紙の文句なんぞも、そう云う深謀遠慮を以て書かれていたので、単純ないたずらや嫌がらせではなかったのであるが、お気の毒ながら頭の悪い連中には、どうして私が好きでもない猫を欲しがるのか、とてもその真意が掴めッこあるまい、そしていろいろ滑稽極まる邪推をしたり、子供じみた騒ぎ方をするであろうと云うところに、抑えきれない優越感を覚えたのであった。
兎に角、そんな訳であるから、その折角のリリーに逃げられた時の落胆と、思いがけなくそれが戻って来た時の喜びとがどんなに大きかったとしても、畢竟それは得意の「深謀遠慮」に基づく打算的な感情であって、ほんとうの愛着ではない筈なのだが、あの時以来、一緒に二階で暮らすようになってみると、全く予想もしなかった結果が現われて来たのである。