尤も最初の二三回は、普請場の砂があったお蔭で助かったけれども、生憎近頃は何処にも砂なんかありはしない。
そうかと云って、砂を換えずに放っておくと、とても臭気が激しくなって、しまいに階下へまで匂って来るので、妹夫婦が嫌な顔をする。
よんどころなく、夜が更けてから彼女はそうッとスコップを持って出かけて行って、その辺の畑の土を掻いて来たり、小学校の運動場から滑り台の砂を盗んで来たり、そんな晩には又よく犬に吠えられたり、怪しい男に尾けられたり、―――全く、リリーのためでなかったら、誰に頼まれてこんな嫌な仕事をしよう、だが又リリーのためならばこう云う苦労を厭わないとは、何としたことであろうと思うと、返す返すも、蘆屋の時分に、なぜこの半分もの愛情を以て、この獣をいつくしんでやらなかったか、自分にそう云う心がけがあったら、よもや夫との仲が不縁になりはしなかったであろうし、このような憂き目は見なかったであろうものをと、今更それが悔まれてならない。