そして着物も着換えずに、厚司姿のまま土間の板草履を突っかけると、ぷいと自転車へ飛び乗って、出かけてしまった。
さっき球撞きに行きたいと云ったのは、ほんとうにそのつもりだったのであるが、今の一件で急に胸がムシャクシャして来て、球なんかどうでもよくなったので、何と云うアテもなしに、ベルをやけに鳴らしながら蘆屋川沿いの遊歩道を真っすぐ新国道へ上ると、つい業平橋を渡って、ハンドルを神戸の方へ向けた。
まだ五時少し前頃であったが、一直線につづいている国道の向うに、早くも晩秋の太陽が沈みかけていて、太い帯になった横流れの西日が、殆ど路面と平行に射している中を、人だの車だのがみんな半面に紅い色を浴びて、恐ろしく長い影を曳きながら通る。