それと云うのが、福子の前ではリリー恋いしさを一生懸命に押し隠して、リリーの「リ」の字も口に出さないでいるものだから、それだけ千万無量の思いが胸に鬱積している訳で、今図らずも塚本に出遭ってみると、やれやれこの男に少しは切ない心の中を聞いて貰おう、そうしたら幾らか気が晴れるだろうと、すっかり当て込んでいたのであったが、塚本としてもせめて慰めの言葉ぐらい、でなければ無沙汰の詫びぐらい、云わなければならない筈なのである。
なぜかと云って、抑もリリーを品子の方へ渡す時に、その後どう云う待遇を受けつつあるか、ときどき塚本が庄造の代りに見舞いに行って、様子を見届けて、報告をすると云う堅い約束があったのである。
勿論それは二人の間だけの申し合わせで、おりんや福子には絶対秘密になっていたのだが、しかしそう云う条件があったからこそ大事な猫を渡してやったのに、あれきり一度もその約束を実行してくれたことがなく、うまうま人をペテンにかけて、知らん顔をしているのであった。