勿論それは二人の間だけの申し合わせで、おりんや福子には絶対秘密になっていたのだが、しかしそう云う条件があったからこそ大事な猫を渡してやったのに、あれきり一度もその約束を実行してくれたことがなく、うまうま人をペテンにかけて、知らん顔をしているのであった。
だが、塚本は、空惚けている訳ではなくて、日頃の商売の忙しさに取り紛れてしまったのであろうか。
ここで遇ったのを幸いに、一と言ぐらい恨みを云ってやりたいけれども、こんなに夢中で働いている者に、今更呑気らしく猫のことなんぞ云い出せもしないし、云い出したところで、あべこべに怒鳴り付けられはしないであろうか。