だが、塚本は、空惚けている訳ではなくて、日頃の商売の忙しさに取り紛れてしまったのであろうか。
ここで遇ったのを幸いに、一と言ぐらい恨みを云ってやりたいけれども、こんなに夢中で働いている者に、今更呑気らしく猫のことなんぞ云い出せもしないし、云い出したところで、あべこべに怒鳴り付けられはしないであろうか。
庄造は、夕日がだんだん鈍くなって行く中で、塚本の手にある畳針ばかりがいつ迄もきらきら光っているのを、見惚れるともなく見惚れながらぼんやり彳んでいるのであったが、ちょうどこのあたりは国道筋でも人家が疎らになっていて、南側の方には食用蛙を飼う池があり、北側の方には、衝突事故で死んだ人々の供養のために、まだ真新しい、大きな石の国道地蔵が立っているばかり。