知らない顔ではないけれども、いきなり飛び込んで来て心やすそうに云われる程の仲やあれへん、と、そう云いたげに見えた主人は、二十銭では断りもならないので、手提金庫から十銭玉を二つ取り出して、黙って掌へ載せてやると、直ぐ向う側の甲南市場へ駈け込んで、アンパンの袋と筍の皮包を懐ろに入れて戻って来て、
「ちょっと台所使わしとくなはれ。
人が好いようでへんにずうずうしいところのある彼は、そう云うことには馴れたものなので、「何しなはんね」と云われても「訳がありまんねん」とばかり、ニヤニヤしながら勝手口へ廻って行って、筍の皮包の鶏の肉をアルミニュームの鍋へ移すと、瓦斯の火を借りて水煮きにした。