庄造は、まだおもてが薄明るいので、その提灯を腰に挿して出かけたが、阪急の六甲の停留所前、「六甲登山口」と記した大きな標柱の立っている所まで来て、自転車を角の休み茶屋に預けて、そこから二三丁上にある目的の家の方へ、少し急なだらだら路を登って行った。
そして家の北側の、裏口の方へ廻って、空地の中へ這入り込むと、二三尺の高さに草がぼうぼうと生えている一とかたまりの叢のかげにしゃがんで、息を殺した。
ここでさっきのアンパンを咬りながら、二時間の間辛抱してみよう、そのうちにリリーが出て来てくれたら、お土産の鶏の肉を与えて、久しぶりに肩へ飛び着かせたり、口の端を舐めさせたり、楽しいいちゃつき合いをしようと、そう云う積りなのであった。