東京座の一と幕見が非常な大入で、場内へギツシリ詰まつた黒山のやうな見物人の波をウムと力んで背中で堰き止めながら、前列に居る私は、一生懸命鉄棒に掴まつて居た。
鉄棒はざらざらに錆びて居て、人いきれの為めに熱く火照つた私の頬へ、ひいやりと触れて居るのが、大変好い心持ちである。
さう思ひながら、私はぢツと顔を舞台の方へ向けて居る。
東京座の一と幕見が非常な大入で、場内へギツシリ詰まつた黒山のやうな見物人の波をウムと力んで背中で堰き止めながら、前列に居る私は、一生懸命鉄棒に掴まつて居た。
鉄棒はざらざらに錆びて居て、人いきれの為めに熱く火照つた私の頬へ、ひいやりと触れて居るのが、大変好い心持ちである。
さう思ひながら、私はぢツと顔を舞台の方へ向けて居る。