そこで私は、読者諸君に今一つこれと似た事件、――日本に於けるクリップン事件とでもいうべきものを、以下に紹介しようと思う。
その事件とはほかでもなく、二三年前に京阪地方の新聞紙を騒がしたところの、兵庫県武庫郡○○村字××に於ける、会社員小栗由次郎なる者の私宅に起ったあの出来事を指すのである。
私がそれを再び取り上げて読者の興味に訴える所以は、当時新聞にはいろいろの記事が現われたけれども、いずれもあの事件を正当に観察していなかった、徒らに誇張した形容詞を並べ、その血なまぐさい光景や、「凶暴を極め、惨虐を極め」た「奸佞なる」犯罪を書き立てたのみで、あの事件が第二のクリップン事件であり、マゾヒストの殺人であるという点に、特別な注意と理解を向けた新聞紙はなかったように、考えられるからである。