彼女は毎日午頃になると、留守宅に鍵をかけて、太い鎖で犬を曳きながら、散歩に出かける。
その時の服装が異様であって、この近所には珍しい断髪の頭に、派手なメリンス友禅の、それも色の褪めかかった、ひどく古ぼけた振袖を着て、紫のコール天の足袋を穿いた風つきはなかなかの美人であるだけに、どう考えても癲狂院のしろものであった。
そして彼女は、犬を連れて一と廻りすると、一旦家へ帰って来て、それから大概、午後二時時分に、今度は恐ろしくハイカラな、キビキビとした洋服を着、鞭のような細いステッキを振りながら、電車でどこかへ出かけて行った。