ところが一方、この十日程前に、わざわざ上海から取り寄せたジャアマン・ウォルフドッグ(独逸種狼犬)があったが、体量十三四貫もある猛犬であるから、階下の一室へ繋いでおいたのに、それが悲鳴を聞くや否や、主人の危急の場合とみて、突然綱を引きちぎって扉を蹴破り、二階の部屋へ駈け込んで来て巴里子に躍りかかったかと思うと、一撃の下に彼女の喉笛を喰い切ってしまった。
巴里子が何故に彼を折檻したかについては、小栗は自分が浅ましい変態性慾者、――マゾヒストであることを包まず語った。
巴里子は決してヒステリーの女ではなく、むしろ小栗を喜ばすために暴威を振っていたのであった。