そして彼女は、小栗と同棲するようになってから、早速土佐犬と狼との混血犬を買い込んだが、それがディステンパーで斃れたので、今度はグレート・デンを買った。
ところがそのグレート・デンは、毛の色合や体つきが彼女の皮膚や服装と調和しないことに気が付き、最近に至ってそれを神戸の犬屋へ売って、代りに独逸の狼犬を取り寄せることにしたのであった。
村の人たちが、彼女が連れて歩いているのをしばしば見たという犬は、即ちグレート・デンのことで、巴里子は狼犬の方が到着する前に、歌劇の一座に加わって半月ばかり九州へ巡業に出かけ、帰って来たのが事件のあった前日の午後であった。