彼の願いは同情を以て聴き届けられ、彼は警官のピストルを借りて、その場で犬を射殺してしまった。
事件はかくの如くにして落着を告げ、その日の夕刊には、「犬に食い殺された女」、「歌劇女優犬に殺さる」、「夫は変態性慾者」等の数段に亙った記事が現われて、この驚くべき夫婦の秘密が明るみへ曝し出されたけれども、それもほんの五六日世間の視聴を集めただけで、次第に忘れられたのであった。
ところで、読者諸君のうちには、その後約五箇月を経た同年八月中頃の二三の新聞に、「人形を入れた不思議な行李」というような記事が隅ッこの方に小さく出ていたのを、読まれた方もあるであろう。