作者は事実の正確を期すると共に、往々先輩知友のアラや失策等に言及したが、それも罪のない素ツ葉抜きの程度に止め、なるべく自他に迷惑をかけないやうに注意したことは勿論である。
しかし何分二十年前の出来事を全く自己の記憶と判断に依つて書いたので、多少の誤まりなきを保し難い。
例へば恒川と萬龍夫人の結婚のいきさつを朝日新聞に漏洩したのは、岡本一平君の所為であるかの如く記したが、其後かの子夫人よりの来翰に接し、あれは当時恒川自身が朝日の記者に語つたのであることを知り、長い間一平君に疑ひをかけてゐたのを済まなく思つてゐるやうな次第である。