現に先生をやりこめた柔道の選手なぞは、先生が色を失って謝罪すると、ちょいと自分の方を見かえって、狡猾そうな微笑を洩しながら、すぐまた読本の下にある押川春浪の冒険小説を、勉強し始めたものである。
それから休憩時間の喇叭が鳴るまで、我毛利先生はいつもよりさらにしどろもどろになって、憐むべきロングフェロオを無二無三に訳読しようとした。
「Life is real, life is earnest.」――あの血色の悪い丸顔を汗ばませて、絶えず知られざる何物かを哀願しながら、こう先生の読み上げた、喉のつまりそうな金切声は、今日でもなお自分の耳の底に残っている。