自分は神田の古本屋を根気よくあさりまわって、欧洲戦争が始まってから、めっきり少くなった独逸書を一二冊手に入れた揚句、動くともなく動いている晩秋の冷い空気を、外套の襟に防ぎながら、ふと中西屋の前を通りかかると、なぜか賑な人声と、暖い飲料とが急に恋しくなったので、そこにあったカッフェの一つへ、何気なく独りではいって見た。
ところが、はいって見るとカッフェの中は、狭いながらがらんとして、客の影は一人もない。
置き並べた大理石の卓の上には、砂糖壺の鍍金ばかりが、冷く電燈の光を反射している。
自分は神田の古本屋を根気よくあさりまわって、欧洲戦争が始まってから、めっきり少くなった独逸書を一二冊手に入れた揚句、動くともなく動いている晩秋の冷い空気を、外套の襟に防ぎながら、ふと中西屋の前を通りかかると、なぜか賑な人声と、暖い飲料とが急に恋しくなったので、そこにあったカッフェの一つへ、何気なく独りではいって見た。
ところが、はいって見るとカッフェの中は、狭いながらがらんとして、客の影は一人もない。
置き並べた大理石の卓の上には、砂糖壺の鍍金ばかりが、冷く電燈の光を反射している。