さうしてその十字架の上には、稚拙な受難の基督が、高々と両腕をひろげながら、手ずれた浮き彫の輪廓を影のやうにぼんやり浮べてゐた。
少女の眼はこの耶蘇を見る毎に、長い睫毛の後の寂しい色が、一瞬間何処かへ見えなくなつて、その代りに無邪気な希望の光が、生き生きとよみ返つてゐるらしかつた。
が、すぐに又視線が移ると、彼女は必吐息を洩らして、光沢のない黒繻子の上衣の肩を所在なささうに落しながら、もう一度盆の西瓜の種をぽつりぽつり噛み出すのであつた。
さうしてその十字架の上には、稚拙な受難の基督が、高々と両腕をひろげながら、手ずれた浮き彫の輪廓を影のやうにぼんやり浮べてゐた。
少女の眼はこの耶蘇を見る毎に、長い睫毛の後の寂しい色が、一瞬間何処かへ見えなくなつて、その代りに無邪気な希望の光が、生き生きとよみ返つてゐるらしかつた。
が、すぐに又視線が移ると、彼女は必吐息を洩らして、光沢のない黒繻子の上衣の肩を所在なささうに落しながら、もう一度盆の西瓜の種をぽつりぽつり噛み出すのであつた。