元来世間の批評家には情味がないと言われている、すこぶる理智的なおれなのだが。
そのお君さんがある冬の夜、遅くなってカッフェから帰って来ると、始は例のごとく机に向って、「松井須磨子の一生」か何か読んでいたが、まだ一頁と行かない内に、どう云う訳かその書物にたちまち愛想をつかしたごとく、邪慳に畳の上へ抛り出してしまった。
と思うと今度は横坐りに坐ったまま、机の上に頬杖をついて、壁の上のウイル――べエトオフェンの肖像を冷淡にぼんやり眺め出した。
元来世間の批評家には情味がないと言われている、すこぶる理智的なおれなのだが。
そのお君さんがある冬の夜、遅くなってカッフェから帰って来ると、始は例のごとく机に向って、「松井須磨子の一生」か何か読んでいたが、まだ一頁と行かない内に、どう云う訳かその書物にたちまち愛想をつかしたごとく、邪慳に畳の上へ抛り出してしまった。
と思うと今度は横坐りに坐ったまま、机の上に頬杖をついて、壁の上のウイル――べエトオフェンの肖像を冷淡にぼんやり眺め出した。