其節は格別取乱したる気色も無之、涙も既に乾きし如く思はれ候へども、足下のくるすを眺め候眼の中、何となく熱病人の様にて、私方下男など、皆々気味悪しく思ひし由に御座候。
扨、私申し条も相立ち候へば、即刻下男に薬籠を担はせ、大雨の中を、篠同道にて、同人宅へ参り候所、至極手狭なる部屋に、里独り、南を枕にして打臥し居り候。
尤も身熱烈しく候へば、殆正気無之き体に相見え、いたいけなる手にて繰返し、繰返し、空に十字を描き候うては、頻にはるれやと申す語を、現の如く口走り、其都度嬉しげに、微笑み居り候。
其節は格別取乱したる気色も無之、涙も既に乾きし如く思はれ候へども、足下のくるすを眺め候眼の中、何となく熱病人の様にて、私方下男など、皆々気味悪しく思ひし由に御座候。
扨、私申し条も相立ち候へば、即刻下男に薬籠を担はせ、大雨の中を、篠同道にて、同人宅へ参り候所、至極手狭なる部屋に、里独り、南を枕にして打臥し居り候。
尤も身熱烈しく候へば、殆正気無之き体に相見え、いたいけなる手にて繰返し、繰返し、空に十字を描き候うては、頻にはるれやと申す語を、現の如く口走り、其都度嬉しげに、微笑み居り候。