この心もちのために、この慰安と寂寥とを味わいうるがために、自分は何よりも大川の水を愛するのである。
銀灰色の靄と青い油のような川の水と、吐息のような、おぼつかない汽笛の音と、石炭船の鳶色の三角帆と、――すべてやみがたい哀愁をよび起すこれらの川のながめは、いかに自分の幼い心を、その岸に立つ楊柳の葉のごとく、おののかせたことであろう。
この三年間、自分は山の手の郊外に、雑木林のかげになっている書斎で、平静な読書三昧にふけっていたが、それでもなお、月に二、三度は、あの大川の水をながめにゆくことを忘れなかった。