上げ潮につれて灰色の帆を半ば張った伝馬船が一艘、二艘とまれに川を上って来るが、どの船もひっそりと静まって、舵を執る人の有無さえもわからない。
自分はいつもこの静かな船の帆と、青く平らに流れる潮のにおいとに対して、なんということもなく、ホフマンスタアルのエアレエプニスという詩をよんだ時のような、言いようのないさびしさを感ずるとともに、自分の心の中にもまた、情緒の水のささやきが、靄の底を流れる大川の水と同じ旋律をうたっているような気がせずにはいられないのである。
けれども、自分を魅するものはひとり大川の水の響きばかりではない。