俊助は大学から銀座の八咫屋へ額縁の註文に廻った帰りで、尾張町の角から電車へ乗ると、ぎっしり両側の席を埋めた乗客の中に、辰子の寂しい顔が見えた。
彼が電車の入口に立った時、彼女はやはり黒い絹の肩懸をかけて、膝の上にひろげた婦人雑誌へ、つつましい眼を落しているらしかった。
が、その内にふと眼を挙げて、近くの吊皮にぶら下っている彼の姿を眺めると、たちまち片靨を頬に浮べて、坐ったまま、叮嚀に黙礼の頭を下げた。
俊助は大学から銀座の八咫屋へ額縁の註文に廻った帰りで、尾張町の角から電車へ乗ると、ぎっしり両側の席を埋めた乗客の中に、辰子の寂しい顔が見えた。
彼が電車の入口に立った時、彼女はやはり黒い絹の肩懸をかけて、膝の上にひろげた婦人雑誌へ、つつましい眼を落しているらしかった。
が、その内にふと眼を挙げて、近くの吊皮にぶら下っている彼の姿を眺めると、たちまち片靨を頬に浮べて、坐ったまま、叮嚀に黙礼の頭を下げた。