俊助は同じ東京の高等学校で机を並べていた関係から、何かにつけて野村一家の立ち入った家庭の事情などを、聞かせられる機会が多かった。
野村家と云えば四国の南部では、有名な旧家の一つだと云う事、彼の父が政党に関係して以来、多少は家産が傾いたが、それでも猶近郷では屈指の分限者に相違ないと云う事、初子の父の栗原は彼の母の異腹の弟で、政治家として今日の位置に漕つけるまでには、一方ならず野村の父の世話になっていると云う事、その父の歿後どこかから妾腹の子と名乗る女が出て来て、一時は面倒な訴訟沙汰にさえなった事があると云う事――そう云ういろいろな消息に通じている俊助は、今また野村の帰郷を必要としている背後にも、どれほど複雑な問題が蟠まっているか、略想像出来るような心もちがした。
「まず当分はシュライエルマッヘルどころの騒ぎじゃなさそうだ。