が、講義は教授の風采とは没交渉に、その面倒なカント哲学の範疇の議論から始められた。
俊助は専門の英文学の講義よりも、反って哲学や美学の講義に忠実な学生だったから、ざっと二時間ばかりの間、熱心に万年筆を動かして、手際よくノオトを取って行った。
それでも合い間毎に顔を挙げて、これは煩杖をついたまま、滅多にペンを使わないらしい大井の後姿を眺めると、時々昨夜以来の不思議な気分が、カントと彼との間へ靄のように流れこんで来るのを感ぜずにはいられなかった。
が、講義は教授の風采とは没交渉に、その面倒なカント哲学の範疇の議論から始められた。
俊助は専門の英文学の講義よりも、反って哲学や美学の講義に忠実な学生だったから、ざっと二時間ばかりの間、熱心に万年筆を動かして、手際よくノオトを取って行った。
それでも合い間毎に顔を挙げて、これは煩杖をついたまま、滅多にペンを使わないらしい大井の後姿を眺めると、時々昨夜以来の不思議な気分が、カントと彼との間へ靄のように流れこんで来るのを感ぜずにはいられなかった。