俊助は専門の英文学の講義よりも、反って哲学や美学の講義に忠実な学生だったから、ざっと二時間ばかりの間、熱心に万年筆を動かして、手際よくノオトを取って行った。
それでも合い間毎に顔を挙げて、これは煩杖をついたまま、滅多にペンを使わないらしい大井の後姿を眺めると、時々昨夜以来の不思議な気分が、カントと彼との間へ靄のように流れこんで来るのを感ぜずにはいられなかった。
だからやがて講義がすんで、机を埋めていた学生たちがぞろぞろ講堂の外へ流れ出すと、彼は入口の石段の上に足を止めて、後から来る大井と一しょになった。