つまり奈良の老若をかつごうと思ってした悪戯が、思いもよらず四方の国々で何万人とも知れない人間を瞞す事になってしまったのでございます。
恵印はそう思いますと、可笑しいよりは何となく空恐しい気が先に立って、朝夕叔母の尼の案内がてら、つれ立って奈良の寺々を見物して歩いて居ります間も、とんと検非違使の眼を偸んで、身を隠している罪人のような後めたい思いがして居りました。
が、時々往来のものの話などで、あの建札へこの頃は香花が手向けてあると云う噂を聞く事でもございますと、やはり気味の悪い一方では、一かど大手柄でも建てたような嬉しい気が致すのでございます。