「けれども元より叔母の尼には、恵印のそんな腹の底が呑みこめる訳もございませんから、こちらは頭巾もずり落ちるほど一生懸命首を延ばして、あちらこちらを見渡しながら、成程竜神の御棲まいになる池の景色は格別だの、これほどの人出がした上からは、きっと竜神も御姿を御現わしなさるだろうのと、何かと恵印をつかまえては話しかけるのでございます。
そこでこちらも柱の根がたに坐ってばかりは居られませんので、嫌々腰を擡げて見ますと、ここにも揉烏帽子や侍烏帽子が人山を築いて居りましたが、その中に交ってあの恵門法師も、相不変鉢の開いた頭を一きわ高く聳やかせながら、鵜の目もふらず池の方を眺めて居るではございませんか。
恵印は急に今までの情けない気もちも忘れてしまって、ただこの男さえかついでやったと云う可笑しさに独り擽られながら、『御坊』と一つ声をかけて、それから『御坊も竜の天上を御覧かな。