丁度水蒸気の多い春の始で、たなびいた霞の底からは、遠くの寺の鐘が、ぼうんと、眠むさうに、響いて来る、その鐘の音が、如何にも又のどかで、聞きなれた西洋の寺の鐘のやうに、いやに冴えて、かんと脳天へひびく所がない。
――が、かう云ふ太平な風物の中にゐたのでは、さぞ悪魔も、気が楽だらうと思ふと、決してさうではない。
彼は、一度この梵鐘の音を聞くと、聖保羅の寺の鐘を聞いたよりも、一層、不快さうに、顔をしかめて、むしやうに畑を打ち始めた。
丁度水蒸気の多い春の始で、たなびいた霞の底からは、遠くの寺の鐘が、ぼうんと、眠むさうに、響いて来る、その鐘の音が、如何にも又のどかで、聞きなれた西洋の寺の鐘のやうに、いやに冴えて、かんと脳天へひびく所がない。
――が、かう云ふ太平な風物の中にゐたのでは、さぞ悪魔も、気が楽だらうと思ふと、決してさうではない。
彼は、一度この梵鐘の音を聞くと、聖保羅の寺の鐘を聞いたよりも、一層、不快さうに、顔をしかめて、むしやうに畑を打ち始めた。