松脂の匂と日の光と、――それが何時でも夫の留守は、二階建の新しい借家の中に、活き活きした沈黙を領してゐた。
信子はさう云ふ寂しい午後、時々理由もなく気が沈むと、きつと針箱の引出しを開けては、その底に畳んでしまつてある桃色の書簡箋をひろげて見た、書簡箋の上にはこんな事が、細々とペンで書いてあつた。
「――もう今日かぎり御姉様と御一しよにゐる事が出来ないと思ふと、これを書いてゐる間でさへ、止め度なく涙が溢れて来ます。
松脂の匂と日の光と、――それが何時でも夫の留守は、二階建の新しい借家の中に、活き活きした沈黙を領してゐた。
信子はさう云ふ寂しい午後、時々理由もなく気が沈むと、きつと針箱の引出しを開けては、その底に畳んでしまつてある桃色の書簡箋をひろげて見た、書簡箋の上にはこんな事が、細々とペンで書いてあつた。
「――もう今日かぎり御姉様と御一しよにゐる事が出来ないと思ふと、これを書いてゐる間でさへ、止め度なく涙が溢れて来ます。