だからフイル・ハアモニイ会を聞くと云つても、一向芸術家らしくない、怪しげな耳をそば立てて、楽器の森から吹いて来るオオケストラの風の音を、漫然と聞いてゐたのである。
当夜は閑院宮殿下も御臨場になつたので、帝劇のボックスや我々のゐるオオケストラ・ストオルには、模様を着た奥さんや御嬢さんが大分方々に並んでゐた。
現に自分の隣なぞにも、白粉をつけた骨と皮ばかりの老夫人が、金の指環をはめて金の時計の鎖を下げて、金の帯留の金物をして、その上にもまだ慊らず、歯にも一面に金を入れて、(これは欠伸をした時に見えたのである。