と、外は薄雲のかかった月の光が、朦朧と漂っているだけで、停留場の柱の下は勿論、両側の町家がことごとく戸を鎖した、真夜中の広い往来にも、さらに人間らしい影は見えません。
妙だなと思う途端、車掌がベルの綱を引いたので、電車はそのまま動き出しましたが、それでもまだ窓から外を眺めていると、停留場が遠くなるのに従って、今度は何となく私の眼にも、そこの月の光の中に、だんだん小さくなって行く人影があるような気がしました。
これは申すまでもなく、私の神経の迷かもしれませんが、あの先を急ぐ赤電車の車掌が、どうして乗る人もない停留場へ電車を止めなどしたのでしょう。