こう云う事情がありましたから、お島婆さんの所へ行くと云っても、新蔵のほろ酔の腹の底には、どこか真剣な所があったのでしょう。
一つ目の橋の袂を左へ切れて、人通りの少い竪川河岸を二つ目の方へ一町ばかり行くと、左官屋と荒物屋との間に挟まって、竹格子の窓のついた、煤だらけの格子戸造りが一軒ある――それがあの神下しの婆の家だと聞いた時には、まるでお敏と自分との運命が、この怪しいお島婆さんの言葉一つできまりそうな、無気味な心もちが先に立って、さっきの酒の酔なぞは、すっかりもう醒めてしまったそうです。
また実際そのお島婆さんの家と云うのが、見たばかりでも気が滅入りそうな、庇の低い平家建で、この頃の天気に色の出た雨落ちの石の青苔からも、菌ぐらいは生えるかと思うぐらい、妙にじめじめしていました。