思いなしか、立て切った障子に響いて、かすかな水の音が聞えました。
さて肝腎の相手はと見ると、床の前を右へ外して、菓子折、サイダア、砂糖袋、玉子の折などの到来物が、ずらりと並んでいる箪笥の下に、大柄な、切髪の、鼻が低い、口の大きな、青ん膨れに膨れた婆が、黒地の単衣の襟を抜いて、睫毛の疎な目をつぶって、水気の来たような指を組んで、魍魎のごとくのっさりと、畳一ぱいに坐っていました。
さっきこの婆のものを云う声が、蟇の呟くようだったと云いましたが、こうして坐っているのを見ると、蟇も蟇、容易ならない蟇の怪が、人間の姿を装って、毒気を吐こうとしているとでも形容しそうな気色ですから、これにはさすがの新蔵も、頭の上の電燈さえ、光が薄れるかと思うほど、凄しげな心もちがして来たそうです。