小娘は何時かもう私の前の席に返つて、不相變皸だらけの頬を萌黄色の毛絲の襟卷に埋めながら、大きな風呂敷包みを抱へた手に、しつかりと三等切符を握つてゐる。
私はこの時始めて、云ひやうのない疲勞と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出來たのである。
(大正八年四月作)
小娘は何時かもう私の前の席に返つて、不相變皸だらけの頬を萌黄色の毛絲の襟卷に埋めながら、大きな風呂敷包みを抱へた手に、しつかりと三等切符を握つてゐる。
私はこの時始めて、云ひやうのない疲勞と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出來たのである。
(大正八年四月作)