尤もこれは甲先生や乙先生が堂々たる本官教授だつたのに反して、予は一介の嘱託教授に過ぎなかつたから、予の呼吸し得た自由の空気の如きも、実は海軍当局が予に厚かつた結果と云ふよりも、或は単に予の存在があれどもなきが如くだつた為かも知れない。
が、さう解釈する事は独り礼を昨日の上官に失するばかりでなく、予に教師の口を世話してくれた諸先生に対しても甚だ御気の毒の至だと思ふ。
だから予は外に差支へのない限り、正に海軍当局の海の如き大度量に感泣して、あの横須賀工廠の恐る可き煤煙を肺の底まで吸ひこみながら、永久に「それは犬である」の講釈を繰返して行つてもよかつたのである。