神田同朋町の銭湯松の湯では、朝から相変らず客が多かった。
式亭三馬が何年か前に出版した滑稽本の中で、「神祇、釈教、恋、無常、みないりごみの浮世風呂」といった光景は、今もそのころと変りはない。
風呂の中で歌祭文を唄っている嚊たばね、上がり場で手拭をしぼっているちょん髷本多、文身の背中を流させている丸額の大銀杏、さっきから顔ばかり洗っている由兵衛奴、水槽の前に腰を据えて、しきりに水をかぶっている坊主頭、竹の手桶と焼き物の金魚とで、余念なく遊んでいる虻蜂蜻蛉、――狭い流しにはそういう種々雑多な人間がいずれも濡れた体を滑らかに光らせながら、濛々と立ち上がる湯煙と窓からさす朝日の光との中に、糢糊として動いている。