芥川龍之介 『槍ヶ嶽紀行』 うす日に蒸された峠の空気は、無気味な静寂を孕んでゐた。 馬糞にたかつてゐる蛇の目蝶と蓙を煽つて行く私、――それがこの急な路の上に、生きて動いてゐるすべてであつた。 と思ふと鈍い翅音がして、青黒い一匹の馬蠅が、ぺたりと私の手の甲に止まつた。 芥川龍之介の名言・名文を読む 用例を検索する → シェア