駿府にて女房等が大根の漬物の塩辛きに困じて、家康に歎きけるを、厨の事をば沙汰しける松下常慶を召して今少し塩加減よくすべしと諭ししかば、此の老人主が側に進み寄りて、何事をかささやきしに、主は言葉なくして唯笑ひけるを、彼れ其の儘退きしと云ふ。
「老人ささやきしは、『今の如く塩辛く漬けさせ候てさへ、朝夕の用夥しきものを女房達の好みの如く、塩加減いたし候はば、何ほどの費用に及ぶべきも計りがたし。
女房達の申す詞など聞し召さぬ様にて、わたらせ給ふこそ然るべけれ』とは曰ひしなりけり。
駿府にて女房等が大根の漬物の塩辛きに困じて、家康に歎きけるを、厨の事をば沙汰しける松下常慶を召して今少し塩加減よくすべしと諭ししかば、此の老人主が側に進み寄りて、何事をかささやきしに、主は言葉なくして唯笑ひけるを、彼れ其の儘退きしと云ふ。
「老人ささやきしは、『今の如く塩辛く漬けさせ候てさへ、朝夕の用夥しきものを女房達の好みの如く、塩加減いたし候はば、何ほどの費用に及ぶべきも計りがたし。
女房達の申す詞など聞し召さぬ様にて、わたらせ給ふこそ然るべけれ』とは曰ひしなりけり。