なれど「ろおれんぞ」は唯、美しい顔を赤らめて、「娘は私に心を寄せましたげでござれど、私は文を貰うたばかり、とんと口を利いた事もござらぬ」と申す。
なれど世間のそしりもある事でござれば、「しめおん」は猶も押して問ひ詰つたに、「ろおれんぞ」はわびしげな眼で、ぢつと相手を見つめたと思へば、「私はお主にさへ、嘘をつきさうな人間に見えるさうな」と、咎めるやうに云ひ放つて、とんと燕か何ぞのやうに、その儘つと部屋を立つて行つてしまうた。
かう云はれて見れば、「しめおん」も己の疑深かつたのが恥しうもなつたに由つて、悄々その場を去らうとしたに、いきなり駈けこんで来たは、少年の「ろおれんぞ」ぢや。