何がそんなに面白かりしと言えば、別に何事もあった訣にはあらず、只人を見るのが面白かりしだけなり。
蓮花は未だ開かざれど、岸をめぐれる槐柳のかげや前後の掛茶屋にいる人を見れば、水煙管を啣えたる老爺あり、双孖髻に結える少女あり、兵卒と話している道士あり、杏売りを値切っている婆さんあり、人丹(仁丹にあらず)売りあり、巡査あり、背広を着た年少の紳士あり、満洲旗人の細君あり、――と数え上げれば際限なけれど、兎に角支那の浮世絵の中にいる心ちありと思うべし。
殊に旗人の細君は黒い布か紙にて造りたる髷とも冠ともつかぬものを頂き、頬にまるまると紅をさしたるさま、古風なること言うべからず。