黒酒の杯があつても、口を触れない。
彼は、唯、両手を膝の上に置いて、見合ひをする娘のやうに霜に犯されかかつた鬢の辺まで、初心らしく上気しながら、何時までも空になつた黒塗の椀を見つめて、多愛もなく、微笑してゐるのである。
それから、四五日たつた日の午前、加茂川の河原に沿つて、粟田口へ通ふ街道を、静に馬を進めてゆく二人の男があつた。
黒酒の杯があつても、口を触れない。
彼は、唯、両手を膝の上に置いて、見合ひをする娘のやうに霜に犯されかかつた鬢の辺まで、初心らしく上気しながら、何時までも空になつた黒塗の椀を見つめて、多愛もなく、微笑してゐるのである。
それから、四五日たつた日の午前、加茂川の河原に沿つて、粟田口へ通ふ街道を、静に馬を進めてゆく二人の男があつた。