彼は、唯、両手を膝の上に置いて、見合ひをする娘のやうに霜に犯されかかつた鬢の辺まで、初心らしく上気しながら、何時までも空になつた黒塗の椀を見つめて、多愛もなく、微笑してゐるのである。
それから、四五日たつた日の午前、加茂川の河原に沿つて、粟田口へ通ふ街道を、静に馬を進めてゆく二人の男があつた。
一人は濃い縹の狩衣に同じ色の袴をして、打出の太刀を佩いた「鬚黒く鬢ぐきよき」男である。
彼は、唯、両手を膝の上に置いて、見合ひをする娘のやうに霜に犯されかかつた鬢の辺まで、初心らしく上気しながら、何時までも空になつた黒塗の椀を見つめて、多愛もなく、微笑してゐるのである。
それから、四五日たつた日の午前、加茂川の河原に沿つて、粟田口へ通ふ街道を、静に馬を進めてゆく二人の男があつた。
一人は濃い縹の狩衣に同じ色の袴をして、打出の太刀を佩いた「鬚黒く鬢ぐきよき」男である。