それで、彼は心細さうに、荒涼とした周囲の原野を眺めながら、うろ覚えの観音経を口の中に念じ念じ、例の赤鼻を鞍の前輪にすりつけるやうにして、覚束ない馬の歩みを、不相変とぼとぼと進めて行つた。
馬蹄の反響する野は、茫々たる黄茅に蔽はれて、その所々にある行潦も、つめたく、青空を映したまま、この冬の午後を、何時かそれなり凍つてしまふかと疑はれる。
その涯には、一帯の山脈が、日に背いてゐるせゐか、かがやく可き残雪の光もなく、紫がかつた暗い色を、長々となすつてゐるが、それさへ蕭条たる幾叢の枯薄に遮られて、二人の従者の眼には、はいらない事が多い。