九、霜は又右の次第を秀林院様へ申し上げ候ところ、秀林院様は御返事も遊ばされず、唯お口のうちに「のす、のす」とのみお唱へなされ居り候へども、漸くさりげなきおん気色に直られ、一段然るべしと御意なされ候。
如何さままだお留守居役よりお落し奉らんとも申されぬうちに、落せと仰せられ候訣には参り兼ね候儀ゆゑ、さだめし御心中には少斎石見の無分別なる申し条をお恨み遊ばされしことと存じ上げ候。
且は御機嫌もこの時より引きつづき甚だよろしからず、ことごとにわたくしどもをお叱りなされ、又お叱りなさるる度に「えそぽ物語」とやらをお読み聞かせ下され、誰はこの蛙、彼はこの狼などと仰せられ候間、みなみな人質に参るよりも難渋なる思ひを致し候。