あれは確か、若殿様の十九の御年だったかと存じます。
思いもよらない急な御病気とは云うものの、実はかれこれその半年ばかり前から、御屋形の空へ星が流れますやら、御庭の紅梅が時ならず一度に花を開きますやら、御厩の白馬が一夜の内に黒くなりますやら、御池の水が見る間に干上って、鯉や鮒が泥の中で喘ぎますやら、いろいろ凶い兆がございました。
中でも殊に空恐ろしく思われたのは、ある女房の夢枕に、良秀の娘の乗ったような、炎々と火の燃えしきる車が一輛、人面の獣に曳かれながら、天から下りて来たと思いますと、その車の中からやさしい声がして、「大殿様をこれへ御迎え申せ。