中でも殊に空恐ろしく思われたのは、ある女房の夢枕に、良秀の娘の乗ったような、炎々と火の燃えしきる車が一輛、人面の獣に曳かれながら、天から下りて来たと思いますと、その車の中からやさしい声がして、「大殿様をこれへ御迎え申せ。
と、呼わったそうでございます。
その時、その人面の獣が怪しく唸って、頭を上げたのを眺めますと、夢現の暗の中にも、唇ばかりが生々しく赤かったので、思わず金切声をあげながら、その声でやっと我に返りましたが、総身はびっしょり冷汗で、胸さえまるで早鐘をつくように躍っていたとか申しました。